愛梨へ、ずっと一緒だよ ~東日本大震災11年~ – 伊藤わたる衆議院議員

愛梨へ、ずっと一緒だよ ~東日本大震災11年~

ブログ

/ カテゴリー:ブログ / 作成者:伊藤わたる

母が伝える命の言葉/津波で亡くした長女への思いを胸に、防災と災害の伝承活動を続ける 佐藤美香さん(宮城・石巻市)

2022.3.11公明新聞

 「行ってきまーす」。元気なあいさつをして幼稚園の送迎バスに乗った長女・愛梨ちゃん(当時6歳)へ佐藤美香さん(47)は手を振った。11年前、いつもと変わらない朝の見送りは、東日本大震災によって、永遠の別れとなった。二度と同じ悲劇を起こさない――。娘への思いを胸に、母は「一人でも多くの人が自然災害から助かるように」と願い、防災と震災体験の継承へ、命の言葉を語り続けている。(東日本大震災取材班 文=川又哲也、写真=倉科宗作、動画=武田将宣)

■紙芝居

 「自然災害に人間は勝てません」「逃げて自分の命を守るしかありません」

 小学校の大型テレビに、紙芝居を上演する佐藤さんの姿が映っていた。紙芝居のタイトルは『愛梨ちゃんからの命のメッセージ』。6年生の児童たちは、真剣なまなざしで聞き入っていた。先月24日、鹿児島県東串良町立柏原小学校で、宮城県石巻市にいる佐藤さんとオンラインで結んでの防災授業が行われた。

 「それでは、どこに逃げたらいいの。どうやって逃げたらいいの」「家に帰ったら、お父さん、お母さん、きょうだいと『わが家の避難訓練』について話し合ってくださいね」

 東日本大震災当時、生まれたばかりの児童たち。佐藤さんの紙芝居を「分かりやすかった」「家に帰ったら避難場所を確認します」と“命のメッセージ”を受け止めた。

 “震災を知らない世代”へ避難の重要性を分かってもらうには、どうすればいいか。悩んでいたところ、佐藤さんを知る石巻のイラストレーターが昨秋、愛梨ちゃんを主人公にこの紙芝居を作成した。

■つないだ手

 2011年3月11日の朝、佐藤さんは、愛梨ちゃんと幼稚園への送迎バスを停留所で待っていた。早春の石巻は、まだ寒い。母と子は手と手をつないで足踏みごっこをしながら、体を温めた。やがてバスが到着し、幼稚園へ。普段通りの朝のひとときだった。

 愛梨ちゃんが通っていた日和幼稚園は、小高い日和山の中腹にあった。その日は、卒園式の練習が行われた。午後2時46分、帰宅する園児がバスに乗った後、激しい揺れが起きる。防災無線から津波警報が流れる中、愛梨ちゃんたちが乗せられたバスは、津波を想定せず、高台から海の方へと向う。幼稚園に津波被害はなかったが、バスは津波と火災に巻き込まれ愛梨ちゃんら園児5人の命が奪われた。

 佐藤さんが愛梨ちゃんを見つけたのは3月14日。5人は助け合うように、折り重なっていた。「真っ黒こげで赤ちゃんくらいの大きさ」となった愛梨ちゃんを「壊れてしまうから、抱きしめる事すらできなかった」。

■生きた証し

 愛梨ちゃんは、バスの中で不安で泣き叫ぶ友だちを励ましていた――。佐藤さんは、途中下車した園児の親から聞いた。佐藤さんは、愛梨ちゃんの“生きた証し”を伝えようと語り部の活動を始めた。

 震災から4年後、愛梨ちゃんが見つかった場所に白いフランスギクが咲いた。佐藤さんは、その花の種を広げながら防災を考えてもらう「アイリンブループロジェクト」も展開している。

 佐藤さんは3・11の記憶と命の大切さを積極的に若い世代へ訴えている。宮城学院女子大学で幼児教育を専攻する学生の防災研修で講師を務め、有志と紙芝居の制作に取り組む。佐藤さんの話を聞いた宮城県石巻工業高校の生徒は紙芝居の木枠を作っている。

■二つの“時”

 愛梨ちゃんの部屋には、佐藤さんが小学校入学前に準備した水色のランドセルが今もそのまま置かれている。

 小学生を前に話をすると、小学校に通うことなく逝った娘を思い、つらくなる。女子高生を見掛けると「どんなボーイフレンドができたんだろう」と連想する。佐藤さんは“あの日から止まった時”と“今”の狭間に葛藤しながらも「目の前の命を守るため、伝えなければ」と語り続けている。

 毎年、3月11日に愛梨ちゃんへ手紙を書く佐藤さん。大好きだった水色のインクで、漢字にはルビを振る。昨年は「(語り部として)愛梨に起きたような事は二度と起きて欲しくないとの想い一心で話しています」「毎日想っているからね。これからもずっと一緒だよ」とつづった。

 「いま娘は6歳のままか、17歳か……」。迷いながらも思いが愛梨ちゃんに届くよう佐藤さんは便せんに向かう。

愛梨へ、ずっと一緒だよ ~東日本大震災11年~
愛梨へ、ずっと一緒だよ ~東日本大震災11年~
  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

関連記事一覧

カテゴリー

アーカイブ