タクシー業界支援
コロナ禍で経営に打撃
特例措置 料理宅配を恒久化
「巣ごもり」需要増加が背景
赤羽一嘉国土交通相(公明党)は9月11日の記者会見で、同月末までの特例として認められていたタクシーによる飲食物の配送を、10月以降も継続すると発表した。タクシーでの運送に大きな問題がなかったことから、特例措置の恒久化に踏み切った。
タクシーで運べるものは原則、旅客のみに限られ、飲食物など荷物だけを有償で運ぶことはできない。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛や移動制限で、タクシー事業者は大打撃を受けたが、国民の「巣ごもり」による宅配事業の需要が増加傾向にあった。
こうした状況を踏まえ、国交省は4月21日、タクシーによる飲食物の配送を特例として認めると発表した。当初の期限は5月13日だったが、食事にはデリバリーや出前を活用する「新しい生活様式」が浸透。宅配へのさらなる需要が見込まれたことに加え、タクシー事業者からの延長を求める声もあり、9月末まで特例を延長していた。
10月以降もタクシー事業者が飲食物の宅配業務を続けるには、地方運輸局への申請が必要になる。許可期限は2年後の9月末までで、その後の延長も可能だ。▽飲食物はトランクに乗せて運ぶ▽旅客と荷物を同時に運送しない▽荷物伝票の適切な管理――などが条件となっている。
「継続ありがたい」
「恒久的な措置で宅配サービスを継続できるのは事業者にとってありがたい」。全国ハイヤー・タクシー連合会(全タク連)の井出信男常務理事は、政府の対応を評価する。コロナ禍で、タクシー事業者の経営は全国的に悪化している。全タク連が全国の事業者を対象に調査したところ、政府の緊急事態宣言を受け、5月の営業収入と輸送人員は、全国平均で前年同月比40%以下に落ち込んだ。
政府の特例措置が発表された当初、宅配サービスに参入するタクシー事業者が増え、利用客や飲食店からは好評を博したという。国交省によると、10月以降も飲食品配送の継続申請をした事業者は、2日時点で全国約400社、車両台数は約2万2000台に上る。
多くのタクシー事業者は感染拡大前の経営状況に戻ることは難しいと考えている。井出常務理事は「新たなビジネスモデルの一つとして、事業者は乗客を輸送する本来の役割を補塡する形で続けていくのではないか」と見ている。
利用者、店舗から好評
「プロの配送に安心感」
業界大手の日本交通株式会社(東京都)は、飲食店からの依頼で料理を有料で配送する「日本交通タクシーデリバリー」を4月25日から始めた。都内23区を中心に約50店舗と提携。10月以降も事業を続けている。
配送料金は店舗によって異なるが、基本的に注文した料理代金に、通常のタクシー運賃を上乗せした金額となる。緊急事態宣言下では休日で1日当たり50件ほどの注文があったという。同社の広報担当者は「バイクや自転車による配送に比べ、プロのドライバーが届けることに一定の安心感も働き、利用者や店舗側からは好評」と話す。
交通弱者の需要も
栃木県下野市の石橋タクシー株式会社も、国の特例措置を受けて事業に乗り出した。荒川弘幸社長は、地域の移動手段として高齢者の需要があったことから、「生活を支援する役割も担っていく」と事業を続ける考えだ。小松タクシー株式会社(石川県小松市)は、4月下旬に宅配事業を開始した。担当者は「車を持たない人も少なくない。交通弱者の需要に応えていきたい」と意欲的だ。
公明、事業者の取り組み後押し
感染拡大当初、公明党は全タク連から要望を受けた=3月23日 衆院第1議員会館
公明党はタクシー事業者の取り組みを後押しする観点から、国交省の特例措置の延長、恒久化を推進。タクシー業界からも要望を受け、政府に対策を働き掛けてきた。
5月8日の衆院国交委員会では伊藤渉氏が、政府の緊急事態宣言の延長を踏まえ、経営状況が落ち込むタクシー業界を支援する特例措置の延長を主張。同月27日の同委でも、岡本三成氏が特例措置に関して、夏場の配送に備えて保冷などができる設備の導入に対する財政的な支援を求めるとともに、「タクシー業者が取り組むに値する魅力的な仕組みへと作り替えていただきたい」と訴え、恒久的な制度化を求めていた。
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