コロナ後遺症の実態と課題 – 伊藤わたる

コロナ後遺症の実態と課題

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ヒラハタクリニック(東京・渋谷区)の院長の平畑光一医師

平畑光一医師の講演(要旨)/軽症(コロナ)→重症化(後遺症)多い

新型コロナウイルス感染症の回復後に体のだるさなどが続く後遺症。多くの患者を診てきたヒラハタクリニック(東京・渋谷区)の院長の平畑光一医師が先月30日、公明党厚生労働部会(部会長=伊佐進一衆院議員)で行った講演の要旨を紹介する。

■寝たきり状態などになり、“生活の糧”失うケースも

“コロナ感染者の10人に1人が後遺症に”との世界保健機関(WHO)の見解を踏まえると、国内感染者約650万人(3月時点)のうち約65万人が後遺症と推察できる。当院で3月21日までにコロナ後遺症と診断した3604人のうち、PCR検査などで感染確定済みの人が2638人で、残りは検査を受けられていない人だ。こうした潜在的な感染者がいることも含めると、実際には100万人程度が後遺症になっているかもしれない。

日々の診療などを通じて、感染者のうち半数で軽微な後遺症が見られ、外来治療が必要なレベルの患者は10%程度いると見ている。また、コロナ後遺症で当院を受診した患者のうち、週の半分以上は自宅で休息する“準寝たきり”以上に重症化した人は4割弱に上った。

オミクロン株は、他の株と同様に重い後遺症になる。オミクロン株に置き換わり、感染者が急増したことで、後遺症患者も増えた。しかも、軽症だから後遺症も軽いということはなく、重い後遺症になる例が多い。後遺症まで考慮すると、オミクロン株は「最悪の株」。軽く見てはいけない。

代表的な症状は14ほど挙げられる【グラフ参照】。さまざまな症状が“もぐらたたき”のように出たり消えたりする。特に、倦怠感や思考力の低下(ブレインフォグ)といった症状は深刻だ。「文章やメールが作れない」「何を言ったか覚えられない」。こうした症状で仕事ができなくなり、“生活の糧”を失った人もいる。

当院の後遺症患者で労働者である2110人のうち解雇など職を失った人が149人、休職した人が867人に上った。

■無理に動くと悪化招く可能性

特に注意が必要なのは、入浴や散歩といった軽い運動などの5~48時間後に急激に強い倦怠感が出る「PEM」という状態や、数日間寝込んで動けなくなる「クラッシュ」という状態だ。

適切にケアせずに放置したり、無理に動いたりすると、原因不明で治りにくい慢性疾患「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」に移行する恐れがある。発症すると、日常生活を送ることが困難になる。

後遺症患者には運動療法が勧められることもあるようだが、無計画な運動は症状を悪化させる。WHOのリーフレットにも、倦怠感が強ければ運動を控えるよう書かれている。発症後2カ月間は、体がだるい場合は運動しないだけでも、悪化を防ぐことができる。

厚生労働省が昨年末に発表した後遺症診療の手引き「罹患後症状のマネジメント」では、この点が強調されておらず、改善してもらいたい。

■正しい情報の周知急務/医師らの無理解が患者を追い詰める

喫緊の課題は、コロナ後遺症に関する正しい情報の提供だ。まずは患者への周知。大事な情報が当事者に届いておらず、「もう治らない」と絶望している患者が多くいる。

次に医師側への周知。後遺症に当たる症状は、労災保険の給付や健康保険の傷病手当金の対象になり得る。患者には後遺症で仕事ができず、診断書を書いてもらって、公的支援を受けないと生活ができない人もいる。

それなのに、医師が「(支援の申請に必要な)診断書を書けない」「労災にならない」といった対応をしてしまうケースがある。生活苦で思い詰めてしまい、自死に至る事例も起きている。

現在、全国の後遺症外来はひっ迫している。今後、オミクロン株の派生型「BA.2」が流行し、患者が増加することも想定すると、一刻も早い対応が必要だ。

家族や職場などへの周知も不可欠だ。周囲の無理解により、「心が弱いせいだ」「頑張れば動ける」などと言われ、無理して動いたために症状が重くなってしまう人がいる。「罹患後症状のマネジメント」に、後遺症の原因は不安にあると捉えられかねない表記があることも一因と言えよう。不安から後遺症になるという事実はない。

まずは、厚労省が正しい情報を発信する必要がある。罹患後症状のマネジメントは「暫定版」とされているが、現場から見ても不十分な内容だ。多くの医師や患者が見る手引きであり、臨床の現場の声も踏まえた治療法などを明記することが重要だ。苦しむ後遺症患者を救うために、どうか政治の力で対策を進めてもらいたい。

コロナ後遺症 主な症状
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