産科医の現場を改善せよ – 伊藤わたる

産科医の現場を改善せよ

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/ カテゴリー:ブログ / 作成者:伊藤わたる

先日、ノーフォルト(岡井崇著、早川書房)という本を読み終えた。一人の若き女性産婦人科医を主人公にして、現在の産科医がおかれている状況が、極めて分かりやすく書かれており、とても参考になった。

産婦人科医の不足が指摘されて久しい。その背景には診療報酬のマイナス改定といった報酬面の変化もあるものの、もう一つ大きな要因として、医療訴訟の増大が指摘されている。当然のことながら、医療ミスにより患者に被害が発生した場合、それを司法の場で裁き、適切な結論を得ることは重要である。そうした世の動きにより、医療に対する様々な取り組みが向上することは望ましい結果と言えよう。

しかし、マイナス面も存在する。つまり、裁判では医療現場における不幸な結果(以下、医療事故という)が、医療ミスによるものなのか医療災害、つまり精一杯の治療を施したにもかかわらず結果的に不幸な事態になってしまったというケースなのか、この二つを見分けることが極めて難しく、同じような医療事故であっても、裁判の結果に大きな幅が生じているということのようだ。加えて、医療の制度は年々上がっているにも関わらず、こうした医療事故の報道回数が増えることは、そのまま医療ミスの回数が増えているかのような錯覚を世間に与えてしまう。その結果、大多数の善良な医師が、現場での医師と患者との信頼関係が損なわれてしまっている現状を憂いているようだ。

来年度の診療報酬改定では、そうした現状を踏まえ、産科では流産などのリスクが高い妊産婦を診断した際に支払われる診療報酬を原則2倍に引き上げるほか、救急搬送された妊産婦を受け入れた場合は、あらたな報酬の加算も盛り込まれた。さらに今後の議論として、所謂、無過失保障制度の導入に全力で取り組んでいきたいと考えている。既に欧米で導入が進んでいるこの制度は、医療事故の被害者は医療ミスか医療災害かを問わず補償が受けられることになる。一方で、事故原因の究明においても症例検討会のような形で事故原因の究明がなされ、最終的に医療現場における再発防止に役立つものと言われている。

精密化が進む世の中にあって、不毛な争いを避け、それぞれの権利をバランスよく享受できる制度設計が何事においても重要になってくる。

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